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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

と、ピッタリ寄り添った。鍔逼り合いだ! 次は勝負! どっちか一人斃れるだろう。しかし群像は動かない。群像の頭上を抽てキラキラ閃めくものがある。月光を刎ねたり纏ったり、ビリ付いている太刀である。と、忽然、次の瞬間、「ウン」と云う呻き! 二人同時だ! 群像は前後へ別れたが、不思議とどっちも仆れなかった。しかも一つの人影が、糸に引かれるそれのように、非常に素早く後退り、潜戸の側まで近寄って、そうして潜戸が一杯に開いて、その人影を吸い込んで、そうしてギ――ッと閉ざされた時、闘争は終りを告げたのである。

屋敷へ入り込んだは若侍であり、後へ残ったのは黒鴨の武士で。……

後はひっそりと静かであった。

6

事件はここで江戸へ移る。

ここは深川の霊岸島。そこに一軒の屋敷があった。特色は表門の一所に、桐の木の立っていることであった。その奥まった一室である。

一人の着流しの武士が、頬杖をついて寝そべっている。年の頃は三十七八、色蒼黒く気味が悪い。ドロンと濁ってはいるけれど、油断も隙もならないような、妙な底光を漂わした眼、しかも左の一眼には、星さえ一つ入っている。顎の真中に溝があって、剣難の相を現わしている。