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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

「それで、只今もおいでなさるので?」

「それが明け方、暗い中に、お帰りなすったと申しますことで」

「お前さんそいつを御存知ない?」

「家内中寝込んで居りましたので……」

「どなたが表の戸を開けましたかい?」

グッと鋭く突っ込んで訊いた。

「寝ずの番の女中のお清という女で……」

「ちょっと聞きたいことがある、お清という女中を呼んで下せえ」

間もなく現われたお清という女中は、年も若いし、ぼんやり者らしく、それに昨夜の寝不足からだろう、眼など真赤に充血させていたが、御用聞に何かを訊かれるというので、ベッタリ縁へ膝をつくと、もうおどおどと脅え込んでいた。それと見て取った松吉は、恐がらせては不可ないと、こう思ったに相違ない、丁寧な調子で話しかけた。

「今朝方帰ったという加賀屋さんの手代、何か持ってはいませんでしたかえ?」

「へい」とお清は考え込んだが、

「何にもお持ちではございませんでした」

「ふうん」と云ったが首を傾げた。

「痩せていましたかえ、肥えていましたかえ? 何さ、着ふくれちゃアいませんでしたかね?」

「へえ」と又もや考えたが、

「気がつきませんでございました」

だがもう一度考えると、