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ぜんきてんまやけ

前記天満焼

国枝 史郎

「文芸倶楽部」1927(昭和2)年6月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 48,568 字 · 98 页

青空文庫

どっちを眺めても農夫などの、姿を見ることは出来なかった。

丁寧松は考え込んだ。

20

「さあどこから手を出したものか、からきし俺には見当が付かない。一ツとひとつ珠を弾くか! 柏屋の奥庭の開けずの間さ! ……二ツともう一つ珠を上げるか。久しい前から眼を着けていた、鮫島大学の問題さ。こいつもうっちゃっては置かれない。敵意を示して来たんだからなあ。……三ともう一つ珠を弾くか。加賀屋の主人の行方不明さ。そうして倅の行方不明さ……もう一つ珠を弾くとしよう。宇和島という武士も問題になる。――四ツ事件が紛糾ったってものさ。……ええとところで四ツの中で、どれが一番重大だろうかなあ?」

事件を寄せ集めて考え込んだ。

「四ツが四ツお互い同士、関係があるんじゃアないかしら?」

そんなようにも思われた。

「とすると大変な事件だがなあ」

関係がないようにも思われた。

「関係があろうがなかろうが、どっちみち皆大事件だ。わけても柏屋の開けずの間が、大変物と云わなければならない。人間五人や十人の、生死問題じゃアないんだからなア。……日本全体に関わることだ。……」

藪で小鳥が啼いている。世間の飢饉に関係なく、ほがらかに啼いているのである。