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けんきょう
剣侠
国枝 史郎
「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页
木剣試合
1
文政×年の初夏のことであった。
杉浪之助は宿を出て、両国をさして歩いて行った。
本郷の台まで来たときである。榊原式部少輔様のお屋敷があり、お長屋が軒を並べていた。
と、
「エーイ」
「イヤー」
という、鋭い掛声が聞こえてきた。
(はてな?)
と、浪之助は足を止めた。
(凄いような掛声だが?)
で、四辺を見廻して見た。
掛声はお長屋の一軒の、塀の内側から来たようであった。
幸い節穴があったので、浪之助は覗いて見た。
六十歳前後の老武士と、三十五六歳の壮年武士とが、植込の開けた芝生の上に下り立ち、互いに木剣を構えていた。
(こりゃアいけない)
と浪之助は思った。
(まるでこりゃア段違いだ)
老武士の構えも立派ではあったが、しかし要するに尋常で、構えから見てその伎倆も、せいぜいのところ免許ぐらい、しかるに一方壮年武士の方の伎倆は、どっちかというと武道不鍛練の、浪之助のようなものの眼から見ても、恐ろしいように思われる程に、思い切って勝れているのであった。
それに浪之助には何となく、この二人の試合なるものが、単なる業の比較ではなく、打物こそ木剣を用いておれ、恨みを含んだ真剣の決闘、そんなように思われてならなかった。