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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

二本の白刃を持ち上げるのである。と、威厳ある声がした。

「勝負待て! 刀を引け! 仲裁役は秋山要介!」

声と同時に刀の鞘が、二本の刀身を左右に分けた。

二間の距離を保ちながら、尚、残心、刀を構え、睨み合っている林蔵と猪之松、その間に鞘ぐるみ抜いた太刀を提げて、ノビノビと立ったのは秋山要介で、まず穏かに林蔵へ云った。

「刀を鞘へ納めるがよい」

それから猪之松の方へ顔を向け、

「以前一二度お見かけいたした。高萩村の猪之松殿か、拙者秋山要介でござる。刀を納め下されい」

しばらくの間寂然としていた。

やがて刀の鞘に収まる、鍔鳴りの音が二つ聞こえた。

この頃源女は大薮を出て、唐黍畑の向こうを歩いていた。

(行かなければ不可ない、さあ行こう)

こう思いながら歩いていた。

何者か向こうで呼んでいる。そんなように彼女には思われるのであった。

畦を越し桑畑を越した。そうして丘を向こうへ越した。もう背後を振り返って見ても、街道も大薮も見えないだろう。

大渓谷、大傾斜、大森林、五百頭千頭の馬、無数の馬飼、宏大な屋敷――そういうものの存在している所へ、行かなければならない行かなければならない! ……そう思って彼女は歩いて行く。