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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

しかしそのまま二本の刀身は、一度に水のように後へ引き、その間隔が六歩ほどとなった。

そうしてそのまま静止した。

静止したまま山形をなし、山形をなしたまま微動した。

薄くポ――ッと刀と刀の間に、立ち昇っているのは塵埃であった。

二人の刻んだ足のためにポ――ッと立った塵埃であった。

間、

長い間。

天地寂寥。

が、俄然二本の刀が、宙で烈しくもつれ合った。

閃光! 太刀音! 鏘然! 鍔鳴り!

で、Xの形となって、二本の刀は交叉され、わずかに左右に又前後に、揺れつ縒れつ押し押されつ、粘ったままで放れなかった。

15

鍔競り合い!

眼と眼との食い合い!

そうだ、林蔵と猪之松との眼が、交叉された刀の間を通し、互いに食い合い睨み合っている。

鍔競り合いの恐ろしさは、競り合いから離れる一刹那にあった。胴を輪切るか真っ向を割り付けるか、伎倆の如何、躰形の如何、呼吸の緩急によって変化縦横! が、どっちみち恐ろしい。

林蔵も猪之松も一所懸命、相手の呼吸を計っていた。

と、交叉された刀の間へ、黒く塗られた刀の鞘が、忍びやかに差し込まれた。

「?」

「?」

鞘がゆるゆると上へ上った。