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けんきょう
剣侠
国枝 史郎
「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页
いそいで脉所を握ったが、
「大丈夫、生きてるよ」
「じゃア気絶というやつだな」
一人の香具師が心得顔に云った。
「そうさ、気絶をしているのさ。抜身を持っているところを見ると、きっと誰かと切り合ったんだねえ。……どこも切られちゃアいない。……気負け気疲労で倒れたんだよ」
云い云いお妻は覗き込んだが、
「ご覧よ随分好男子じゃアないか」
「チェーッ」と誰かが舌打ちをした。
「姐御いい加減にしてくんな。どこの馬の骨か知れねえ奴に、それも死に損ない殺され損ないに。気をくばるなんて嬉しくなさ過ぎらあ」
「まあそういったものでもないよ。……第一随分可愛そうじゃアないか。……それにさ、ご覧よ、この蒼白い顔を……唇の色だけが赤くてねえ。……ゾッとするほど綺麗だよ。……」
「色狂人! ……行こう行こう!」
「行きゃアがれ、碌で無し! ……妾アこの人を介抱するよ」
お妻は主水の枕元へ、ペタペタと坐ってなお覗き込んだ。
3
その同じ日のことであった。
絹川という里川の岸で、一人の武士が魚を釣っていた。
四十五六の年齢で、広い額、秀でた鼻、鋭いけれど暖かい眼、そういう顔の武士であった。立派な身分であると見え、衣裳などは寧ろ質素であったが、體に威があり品があった。