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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

浪之助も塀の節穴越しに、苦笑せざるを得なかった。

(若い武士が打たれるはずはない。わざと勝を譲ったんだ)

そう思わざるを得なかった。

浪之助は娘を見た。

柘榴の蕾を想わせるような、紅い小さな唇が、娘を初々しく気高くしていた。

2

「何だそのような未熟の腕でいながら、傲慢らしく振舞うとは」

こう老武士の窘めるような声が、浪之助の耳へ聞こえてきたので、老武士の方へ眼を移して見た。

娘を横手へ立たせたまま、壮年武士と向かい合い、老武士は説いているのであった。

「たとえどのような伎倆があろうと、世間には名人達人がある、上越す者がどれほどでもある、増長慢になってはいけないのう」

こう云った時には老武士の声は、穏やかになり親切そうになり、顔からも怒りがなくなっていた。

「第一わしのようなこんな老人に、もろく負けるようなそんな伎倆では、自慢しようも出来ないではないか。のう澄江、そうであろうがな」

「まあお父様そのようなこと……もうよろしいではござりませぬか……でも陣十郎様のお伎倆は、お立派のように存ぜられますわ」

藤と菖蒲をとりあわせた、長い袂の単衣が似合って、たけてさえ見えるその娘は、とりなすようにそういうように云い、気の毒そうに壮年武士を見た。