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けんきょう

剣侠

国枝 史郎

「山形新聞」1936(昭和11)年3月~8月18日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 156,961 字 · 310 页

青空文庫

「うむ、高萩の猪之松と?」

「ハ、果し合いだい、果し合いだい!」

「む――」と呻くと振り返り、要介は街道の方角を見た。

旅人や百姓の群であろう、遠巻にして街道に屯し、じっと一所を見ている光景が、要介の眼に鮮かに見えた。彼等の見ている一所で、林蔵は怨ある猪之松と、果し合いをしているのであろう。要介も以前から林蔵と猪之松とが、勢力争い激甚であり、一度は雌雄を決するていの、真剣の切り合いをやるべきことを、いろいろの事情から知っていた。

(これはうっちゃって置かれない。林蔵を見殺しにすることは出来ない。聞けば高萩の猪之松は、逸見多四郎から教えを受け、甲源一刀流では使い手とのこと、林蔵といえどもこの拙者が、新影流は十分仕込んで置いた。負ける気遣いもあるまいが、もしも負れば師匠たる拙者の、恥にならないものでもない。林蔵と猪之松との果し合い、考えようによれば逸見多四郎と、この秋山要介との、果し合いと云うことにもなる。これはうっちゃっては置かれない)

「行こう、藤作!」と叫んだが、

(主水氏は?)とこれも気になり、走って行った方へ眼をやった。

広い耕地をよろめきよろめき、陣十郎の後を追い、なお主水は走っていた。