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かたずば
勝ずば
岡本 かの子
「新女苑」1937(昭和12)年12月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 6,991 字 · 15 页
「あの音を聞くと私の胸の中の悪いところがきまって痛み出すんです。こんな家にいることは堪りませんわ。何処かへ移して貰えないでしょうか」
政枝は情なくて堪らぬという感じを顰めた顔附きで現わした。
父親の寛三が医師を案内して二階へ上って来た。
「さあ、政枝、お待ち兼ねの華岡先生がいらっしたよ」
寛三は娘の顔と華岡医師の顔とを等分に見た。寛三はこの頃政枝がしきりに若い医師に無理にまつわりつくような様子が見え出したのに、今日も気兼ねをしていた。
「だって、先生は直ぐ帰ってしまうもの、来ないと同じだわ」
と呟いて、政枝は頸をひねって一寸髪に手をやり、掛け毛布の下で細い体を妙にくねらせた。その嬌羞めいた仕草が多可子を不意に不快にした。見れば耳の附根や頸すじに薄ら垢が目に附く病少女のくせに、今まで丸鋸の音があんなにも堪えられないとかんをたてていた病少女が、けろりとして男の前で無意識にも女らしさを見せる恰好が、無意識であるだけ余計に強く早熟な動物的本能のようなものを感じさせて多可子を不快にした。多可子は結核の子供は結核菌の毒素の刺戟で早熟になるということは何かで読んだことがあった。