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ちはやかんのめいろ
千早館の迷路
海野 十三
「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页
に、例の日本アルプスにおける遭難事件があり、子爵は恐ろしい雪崩と共に深い谿谷へ落ちて生涯を閉じたのである。
それ以来、千早館の話は聞かなかったし、またそんな建築物のあったことも忘れていたが、それが今、失踪した田川勇の日記の中から拾い上げられたのだった。
だがこのときの帆村荘六は、千早館と田川勇とを結びつけて考えるほどの突飛さを持ってはいなかった。そして次は一転して、四方木田鶴子の動静について調査を始めたが、これとて千早館と田鶴子とを結びつけてのことではなく、失踪した田川が最近日記帳までに彼女のことを記してさわぎたてているので、或いは田鶴子の動静よりして田川の行方についての示唆が得られるのではないかと思ったのである。
ところが、田鶴子の身辺を洗ってみると、思いがけなく多彩な資料が集った。まず第一に田鶴子は三月二十四日――つまり田川の遺書にある日附の前日に東京を後にして旅に出掛けていることが分った。これは彼女の住居の周囲から確め得たことである。その行先は残念ながら知っている者がそこにいなかった。しかしよく旅に出ることがあり、一週間ぐらいすると帰宅するのが例であると知れた。