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ちはやかんのめいろ

千早館の迷路

海野 十三

「ロック 増刊 探偵小説傑作選」1947(昭和22)年8月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 24,829 字 · 50 页

青空文庫

田川君の遺書にうたってある一週間の過ぐるのを待たで、この手紙を受取るとすぐ帆村のところへ駆付けたほどに、春部カズ子は聰明な女だ。

「そうなんです。何故とも訳は分らないのに、わたくしはその手紙を読んだとき、足許に踏んでいる大地が崩れて行くような感じを持ったのです。そういういやな気持の経験は、前にも一二度ありました。それはわたくしの父が戦死したその時刻のことです。わたくしは新見附の停留場に立っていましたが……いや、こんなことは事件に関係ないんですから、よしましょう。とにかく田川さんの身の上に、何かあったに違いありません」

帆村は肯きながら、湯沸かしを暖炉の上の熱い鉄板の上に置いた。

「先生、今夜から、わたくしを助手に使って頂きますわ。ご迷惑でも、泊らせて頂きますよ」

「ここへお泊りにならない方がいいですね。でないと結婚を待っていらっしゃるあなたにとって……」

「いえ、先生。わたくしはそんなことを気にしませんし、大丈夫ですわ。それよりも、先生は、この事件に不吉な影がさしていると思うとおっしゃいましたが、それを説明して頂けません」

「困りましたね」

帆村は元のように椅子に腰を下ろし「……不吉な影といったのは、田川君の手紙にあった四方木田鶴子という女性のことに関係しているんです。