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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

「竜神川などといえば誰しも奔流渦巻く大河を想像するでしょう」没頭弥九郎が堤防の上に立って云った。

「――ところがよく見て下さい、事実はこれです、これが竜神川そのものです、見えますか」

彼が手で示すところ、すなわち大堤防の内側は、いちめん枯れた葭や雑草の茂みで、小松や灌木がよく繁殖し、川というよりまったく原野としか見えなかった。それでも仔細に見ると原野ではない、幅三尺ばかりの水が、その間を曲りくねって、見え隠れにちょろちょろ流れていた。

「見えます」半之助は頷いた。

「――たしかに見えました」

「これは昔は単に堰といわれていたのです」

久保大六がしゃがれ声で云った。ひどいしゃがれ声で、こっちの喉がむず痒くなるようだったが、……堰とは要するに田圃へ水を引く用水堀のことで断じて「川」ではなかった。それを埴谷城代がいつか魚釣りに来て、(今でもよく来るそうであるが)これは大洪水の危険があると主張し、すぐさま自分で堤防の設計をし、さっさと工事にとりかかった。……延長七里二十町、総体石で築きあげ、底面の幅五間、高さ三間という、実に壮大無比の大堤防である。これに投入した金員や労力はともかく、工事のために五軒の農家が潰れ、首を吊った者、娘を売った者、親子離散などいろいろな悲劇が起った。