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はんのすけしゅうげん

半之助祝言

山本 周五郎

「キング」大日本雄辯會講談社、1951(昭和26)年7月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,997 字 · 44 页

青空文庫

もちろん図書助の許しを得たのであるが、菊枝夫人はきれいに身じまいをし、点茶の用意をして待っていた。

「やあ困ったな、私は茶は知らないんですよ」

彼は坐るなりそう云った。挨拶ぬきで、にこにこ笑いながら、片手で頸のうしろをぐいと撫で、ひと懐っこい眼で夫人を見た。

「三男坊のひやめしなもんですからね、こんな贅沢な芸当は習わして貰えなかったんです、済みませんが煎茶にして下さいませんか」

「芸当とは仰しゃること」

夫人は笑った。こんなあけっ放しな人間は初めてである、しかし悪い気持ではなかったらしい、やさしい眼で彼を睨みながら、

「なにもむずかしいことはないんですよ、楽に召上ればそれが作法なんです、わたくしだって真似ごとですから」

「そうですか、それなら無礼講ということで頂きますか」

「無礼講の点茶なんて」夫人はまた笑った、

「――貴方はいちいち変ったことを仰しゃるのね」

菊枝夫人はかなり美しい。おそらく四十前後であろうがどうしても十は若くみえる。ふっくらとしたおもながの顔で絖のようになめらかな、しっとりと白い膚をしている、眉は薄墨で描いたような柔毛であるが、それが細いやさしそうな眼とよくうつって、温かい気品と、包むような情味を感じさせた。