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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

親しいになりましてからでも、歳からいうとわたしの方が姉さんでありながら、いつでも妹みたいな気イしてましてん。

で、その時分、――といいますのんは、話前に戻りまして、まだお互いにものもいわんといてました時分、前にいいましたようなけったいな噂立ちましたことは光子さんの耳いも這入ってえへんはずあれしませんのんに、光子さんの様子はちょっとも前と変れしませんねん。わたしの方では疾うから綺麗な人や思て、噂立ちません時分には、光子さんが通りなさると、それとのう傍い寄って行ったりしましてんけど、光子さんの方ではてんと私やかい眼中にないような塩梅で、すうッと通ってしまいはりますが、その通られた跡の空気までが綺麗なような気イするのんです。もしも光子さんが例の噂聞いてなさるとしたら、なんぼ何でも私いうもんに注意しなされへん訳あれしませんやろ。イヤな奴っちゃ思われるか、気の毒や思いなさるか、何とか素振に見えそうなもんですのんに、さっぱりそういう風しなされへんもんですから、私の方も段々ずうずうしいになりまして、また傍い寄って顔のぞき込むようになりましてん。すると或る日、お午の休みに休憩所でばったり出遭うと、いつでもすうッと澄まして通り過ぎてしまいなさるのんに、どういう訳やにッこりしなさって、眼エで笑いなさるのんです。