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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

そいでもう私の親たちは主人を信用してまして、いくらか財産も分けてくれまして、まあまああせるには及ばんから、学者になりたかったら学者になるで、ゆっくり勉強するがええ。洋行もしたければ夫婦で二、三年彼方い行てくるがええなどいうてくれまして、――最初は主人も大そう喜んで、そんなつもりもあったらしいのんですけど、――私があんまり我が儘やのんで、実家の方笠に着て威張るのんやいう風に取って、それが癪に触ったのかも分れしません。しかし性質が学者肌に出来てまして、いつまでたっても書生流のぶっきらぼう抜けしませんし、あいそは下手ですし、それはそれは人づきあい悪い方ですから、弁護士なんぞになりましたところで一向仕事やかいあれしませんね。それでも毎日事務所いだけはきちんきちん出てましたが、そうなりましたら、私の方は一日家にぼんやりしてまして、しょうないものですから、自然また、いろいろと、一旦忘れてたことが胸に浮かんで来るのんです。前には暇ありますと歌作ったりしましたが、歌はかいって思い出の種になりますので、もうこの頃はせえしませんやろう? そんで私、こうやっててはろくな事考えへんさかい、これは何とかせんといかん、何ぞ気イ紛れるようなことはと思いまして、――先生は御存知でしょうか、――あのう、天王寺の方に女子技芸学校いうのんあり