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まんじ
卍
谷崎 潤一郎
「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页
(作者註、柿内未亡人がほんの一部分だといったところのそれらの文穀は、約八寸立方ほどの縮緬の帛紗包みにハチ切れるくらいになっていて、帛紗の端が辛うじて四つに結ばれていた。その小さい堅い結び目を解くのに彼女の指頭は紅を潮し、そこを抓っているように見えた。やがて中から取り出された手紙の数々は、まるで千代紙のあらゆる種類がこぼれ出たかのようであった。なぜならそれらは悉くなまめかしい極彩色の模様のある、木版刷りの封筒に入れられているのである。封筒の型は四つ折りにした婦人用のレターペーパーがやっと這入るほどに小さく、その表面に四度刷りもしくは五度刷りの竹久夢二風の美人画、月見草、すずらん、チューリップなどの模様が置かれてある。作者はこれを見て少からず驚かされた。けだしこういうケバケバしい封筒の趣味は決して東京の女にはない。たといそれが恋文であっても、東京の女はもっとさっぱりしたのを使う。彼女たちにこんなのを見せたら、なんてイヤ味ッたらしいんだろうと、一言の下に軽蔑されること請け合いである。男も彼の恋人からこういう封筒の文を貰ったら、彼が東京人である限り、一朝にしてあいそを尽かしてしまうであろう。