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まんじ

卍

谷崎 潤一郎

「改造」改造社、1928(昭和3)年3月~1929(昭和4)年4月、6月~10月、12月~1930(昭和5)年1月、4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 133,618 字 · 258 页

青空文庫

とにかくその毒々しいあくどい趣味は、さすがに大阪の女である。そうしてそれが相愛し合う女同士の間に交されたものであるのを思う時、尚更あくどさが感ぜられる。ここにその手紙のうちからこの物語の真相を知るのに参考になるものだけを引用するが、ついでにそれらの模様についても、一つ一つ紹介するであろう。思うにそれらの意匠の方が時としては手紙の内容よりも、二人の恋の背景として一層の価値があるからである。――)

(五月六日、柿内夫人園子より光子へ。封筒の寸法は縦四寸、横二寸三分、鴇色地に桜ン坊とハート型の模様がある。桜ン坊はすべてで五顆、黒い茎に真紅な実が附いているもの。ハート型は十箇で、二箇ずつ重なっている。上の方のは薄紫、下の方のは金色、封筒の天地にも金色のギザギザで輪郭が取ってある。レターペーパーは一面に極くうすい緑で蔦の葉が刷ってある上に銀の点線で罫が引いてある。夫人の筆蹟はペン字であるが、字の略しかたにゴマカシがないのを見れば相当に習字の稽古を積んだものに違いなく、女学校では能筆の方だったであろう。小野鵞堂の書風を更に骨無しにしたような、よくいえば流麗、わるくいえばぬらりくらりした字体で、それがまた不思議なくらい封筒の絵とぴったり合っている。