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みなみさんのこいびと

南さんの恋人

豊島 与志雄

――「小悪魔の記録」――

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 17,630 字 · 36 页

青空文庫

すこし厳格かな……だけど、とてもやさしいし……いろんなことを知ってるよ。」

「いやなところはないかい。」

「よく分らないけれど……香水をつけると、匂いが強すぎるし、香水をつけていないと、匂いがうすすぎるし……へんだよ。」

「へんて、なにが。」

「ママは、いつも、なんか……やさしい匂いがしてたよ。」

「おっぱいの匂いだろう。」

「ちがうよ。僕はもうお乳なんかのまないよ。」

「パパはどんな匂いがするんだい。」

「パパには、匂いなんかないさ。」

「君には。」

「ないよ、男だもの。」

「すると、男には匂いがなくて、女にはあるのかい。」

「みんなかどうか、知らないよ。」

正夫は不機嫌に黙りこんでしまった。そしてまたメダカをつっつき始めた。

「やっぱり、君は一人ぼっちで淋しいんだね、そして大勢兄弟のあるメダカがうらやましいんだね。」

「ちがうよ、こんな兄弟なら、僕にだって、世界中にあるよ。」

「世界中に兄弟があるのかい。」

「あるさ、兄さんも弟も、姉さんも妹も、世界中にあるよ。」

「そして、パパもママもかい。」

「……ばかだね、君は。」

正夫に叱られて、おれは愉快になった。茶の間の方をのぞくと、山根さんはまだマニキュアをやっている。