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なんぽうゆうしん

南方郵信

中村 地平

「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页

青空文庫

だから根も葉もない噂の対象に選ばれたのは、牧の旦那の異様な鼻ばかりではなかった。村では眼ぼしい人、例えば村社の神主、収入役、それから長友先生など凡て、この不名誉な醜聞の被疑者として、被害を受けねばならなかった。

そして、そういう騒々しい噂のなかを、ひとりお浜だけが、下腹のつき出た、裾のあわない、はっきりと淫らな印象を与える異様な姿で、屈託もなく歩きまわっている。

南国の陽が漸く衰えをみせたころ、長友先生が突然代用教員をやめて、出京することになった。若い清純な先生の気もちには、村のこういう淫らな雰囲気は耐えられないところであったが、これを機会に素志である音楽修業に出たい、と思いたったのであった。

村をはなれて、先生が出発する時には、小学校の児童たちは、列をつくって隣り町まで見送って行った。この時も例の音楽隊は、行列の先頭にたって歩いたが、先生は旅行用のバスケットは子供の一人に預け、自分はいつものようにクラリオネットを吹奏していた。しかし、先生はよほど悲しかったのであろう。吹奏はこれまで聞いたこともないくらい出来がわるかった。

先生の出京をお浜に知らせないように、豆腐屋の婆さんなどは十分気を配ったものであるが、しかし、どこで聞いたのか、行列が木橋近くまで来た時、結局、お浜は姿を現わしてしまった。