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なんぽうゆうしん
南方郵信
中村 地平
「文學界 第五巻第四号」文藝春秋社、1938(昭和13)年4月1日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 20,899 字 · 42 页
二
猟銃を携えていないことが、旦那はくやしくてしようがないのである。
二
源吉爺さんは家鴨を飼うことが思いきれない。あるひとつのことに思いつくと、爺さんは少時はそのことに熱中する癖なのである。
ある日、爺さんは裏庭で鶏舎の掃除をしていた。鶏の糞をかき集めると、畑の肥料になるのである。すると、そこへ紺絣の筒っぽに、板裏の草履をはいた三太がやって来た。三太は牧の旦那の独り息子である。糞を集めた莚を土の上に置くと、爺さんは歯のない口で三太に笑いかけた。
「アコン。旦那に言って家鴨ば飼って貰いなさらんか。家鴨の卵は鶏のとは較べものにならんほど、大きかですど――」
お坊ちゃん育ちで気の善い旦那は、戸外へ一歩出ると、まるで気が弱く、人ざわりがいいくせに、家のなかでは別人のように、わがままで暴君である。
こらえ性というものが全くなく、怒りだすと手がつけられない。身のまわりに在るものなら飯櫃でも、金魚鉢でも手あたり次第に投げつける。だから、よくせきの用事でもない限り、家人はめったに旦那に口をきこうとはしない。源吉爺さんが家鴨のことで、そそのかしているように、旦那のお気に入りである三太を、メッセンジャア・ボーイに利用したがるのである。