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なんばんひわもりうこんまる

南蛮秘話森右近丸

国枝 史郎

「少女倶楽部」1927(昭和2)年4月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 55,869 字 · 112 页

青空文庫

足を止めたのは南蛮寺の裏手、民弥の家の前であった。

「家財道具やお払い物、高く買います高く買います」一段と声を張り上げて、こう呼びながら眼を光らせ、民弥の家を覗き込んだ。

11

民弥の家の一つの室では二人の男女が話していた。

その一人は民弥であり、もう一人は右近丸であった。

父を失い孤児となった、民弥の身の上を気の毒がり、右近丸は見舞いに来たのである。しかし勿論一方では、殺された不幸の弁才坊が、生前研究した唐寺の謎の、研究材料を探し出し、主君信長公の命令通り、高価の金で買い求めようと、そうも考えて来たのであった。

窓から昼の陽が射し込んでいる。室が明るく輝いている。生前の弁才坊の研究室であり、また殺された室でもあった。秘密を保とうためなのだろう、四方板壁でかこまれた、紅毛振の室である。その一方に扉がある。紅毛振の扉である。扉と向かい合った一方の壁には、巨大な書棚が据えてある。書棚には本が積んである。巻軸もあれば帙入もある。西班牙文字の本もある。いずれも貴重な珍書らしい。扉を背にして左の壁に、穿いているのが窓である。扉を背にして右の壁に、懸けてあるのは製図である。