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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

種々手数を煩した揚句、ようよう満足して先の婦人が出て行ってしまうと、今度は彼女自らが、溜息一つつかず、身支度にとりかかった。

私は、思わず、

「貴女は、ほんとに親切な方だ」

と云った。そして、見栄えのしない丸顔を、一層沈める薄鼠色の絹服を裾の方から引あげる様を見守った。

「――一つは気で痛むんですね……」

彼女は、もう今迄のことをまるで忘れたように訊き始めた。

「どちらからいらっしゃいましたの?」

「紐育から」

「まあ、紐育はようござんすね。去年半年ほどおりました。――遠くまでですの?」

私は、自分の計画を話した。

「私は、今日の夕方着く△△△で降ります。――いつ頃御結婚になりまして?」

こまごましたものを化粧箱にしまっていた自分は、我知らず意外な感に打れた。

彼女は、鏡の方に向いたまま、肩のフックを押え至極平静な声で質問をかけているのである。

いつの間に、自分達を観察したのだろう!

おどろきながらも、私は暖い心でありのままを告げた。

「そうお。私もね来月には結婚いたします。今度も実はフィアンセのところへ参りますの。幾度も幾度もニュー・オルレアンスと△△△との間を往復して、もう好い加減草臥(くたび)れてしまいました。