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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

――でも――今度でもうお仕舞いだから。……」

云いながら、彼女は一寸鏡の中を覗きこんで、手早く前髪の形をなおした。そして、振返るなり、突然、何を思ったか力をこめた声で、

“Isn't that splendid !”

と云って私の顔をじっと眺めた。

“I wish your happiness.”

私は、懇ろに彼女の肩を叩いた。

紐育からニュー・オルレアンスまで、同車の旅客の中には、これぞといって特色のある人も見えなかった。数の少ないこと、珍らしいこと等で、却って我々が折々人の注意を牽く位のものであった。

けれども、今朝になって周囲を見まわすと、道伴れはよほど変化している。何等かの意味で注目を牽く人が、一つ車室に必ず一人か二人はいるらしく見受けられるのである。

先ず先刻の、鼠色の絹服の婦人を始めとして、我々の背後には、眼を醒すなり、賑やかな年寄りの夫婦に娘づれの一組がいる。

丸々と肥って同じように赧ら顔の夫婦は、一見、小金を溜めた八百屋(グロサリー)の店主という位に受取れる。感謝祭の前後を、カリフォルニアの親類ででも過そうというのであろう。近所の座席から気軽に人を誘って来ては、小児のように骨牌に熱中しているのである。