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なんろ

南路

宮本 百合子

「太陽」1922(大正11)年1月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 31,813 字 · 63 页

青空文庫

自分の見た狭い範囲だけでも、紐育と華盛頓(ワシントン)、こことでは、住む人の心持から雰囲気が、まるで異っている。

嘗て、父がまだ一緒に滞留していた時分、小蒸汽で、ずっとハドソン川の上流から河口の方へと流れ下って見たことがある。内部に這入って見上げた紐育というものではなく、外部から欧州大陸との直接国道である水の上から紐育という大都市の輪廓を見ようというのである。

左右に絶壁の聳え立った上流では、いかにも秋の樹林の色が美しい。静かに河沿いをドライブして行く自動車や、騎馬の人かげを黒く小さく見渡しながらだんだんと下にかかり、触手のように無数の棧橋の突出た下流、日に白く光る高屋が、びっしりと肩を並べ、高さを競って詰っているのを眺めると、自分は、異様な感に打れた。

あの街の中に、用事があって歩き廻っているとき、誰一人、これほど不思議な、有り得べからざる心持には打れないだろう。責任も義務もなく、静かな波の上からこの大市街を見渡すと、何ということもなく、今にも一大変動が突発して、たちまち四十階の建物も、誇らしげなウール・ウォルスの円屋根も、一時に消えて無くなりそうな心持がするのである。