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たまご
卵
夢野 久作
「猟奇」1929(昭和4)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,782 字 · 8 页
それはよく見ると青いような、黄色いような、半透明な殻の中にトロトロした液体を一パイに充実さしているらしい水ぐらいの重たさのものでした。その太陽に向っている半面は暖かくなっていました。
三太郎君は、それから毎晩その卵を抱いて寝ました。
そのつめたい殻が、三太郎君の肌とおなじ暖かさになると、卵の中からスヤスヤという寝息が、かすかに聞えて来るように思われました。しかも、それが三太郎君の妄想でない証拠には、ためしにチョットゆすぶってみると、その寝息の音がピッタリと止まるのでした。そうして、それと一所にお乳のような、又は洗い粉のような甘ったるいにおいが、ほのかに湧いて来るのです。
三太郎君は卵が可愛ゆくなりました。毎晩暗くなるのを待ちかねて、毀さないようにソッと抱いて寝るのが、この上もない楽しみになって来ました。そうして夜が明けるとすぐに夜具を押し入れに入れて、自分の寝ぬくもりの籠もった敷布団の間にソット入れてやるのでした。こうして独身のまま、かあいい卵を抱いて生涯を過したらばどんなに気楽で嬉しいだろう……なぞと空想したりしました。
そのうちに卵は次第に変化して来るようでした。