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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
コップの食塩水が少しでも減ると、すぐに缶からなみなみと注いだ。その盛り上った水面に、明るい障子が小さく映っていて、潮が引くように徐々と中低くなっていった。
噴霧筒の水滴を受くる下のコップが一杯になっても、周平はまだ吸入を止そうとしなかった。保子が側から云った。
「下のコップが一杯になったからもう沢山でしょう。」
周平は黙ってアルコール・ランプを吹き消した。
隆吉は顔を濡れ手拭で拭いて貰って、また床の上に横わった。呼吸が非常に滑かになったらしく、胸の奥で静かに息をしていた。
「よかったわね。」と保子は云っていた。「こんなに沢山したんだから、もうじきに起き上れるようになりますよ。」
室の中は湯気が籠ってむし暑かった。周平は障子を開いて縁側に出た。
外は一面に日が照りつけていた。蝉が鳴いていた。時々何処からともなく吹いてくる風に、木の葉が重々しく揺れて、それがぎらぎら輝くように見えた。庭の隅にある睡蓮の鉢に、緋目高が二匹静かに浮いていた。鰭だけを気忙しなく動かしながら、いつまでも同じ処に浮いていた。
井上さん、というような声がした。暫くするとまたはっきりその声がした。