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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

周平も大胆に目配せを返した。彼女は水を持ってきてくれた。煖爐にあたる真似をして、肩を一寸聳かしてみせた。その眼に、彼は眼付で微笑んでみせた。彼女は煙草を一本取って、一寸吹かしてから、おお辛いと云いながら持て余す様子をした。それを彼は引受けて自分で吸った。立去る時彼女は一寸彼の袖を引いた。もう酒を止せという相図だった。それでも彼は皆からなお勧められると、じろりと横目で、向うに居るお清の顔を見た。お清は睥むような眼付をした。彼は口を尖らしながら睥み返した。そして杯を手にした。

そういうことが――二人差向いでいる時には妙にぎごちなく思われることが、大勢の面前では、何のこだわりもなく敏活に相通ずるのであった。そして彼は、其処を出る時には可なり酔っ払っていた。足がふらふらしていた。

「危いわ。気をおつけなさいよ。」

口早に囁いたお清の言葉が、長く彼の耳に残っていた。彼は皆から一二歩後れがちに足を運びながら、寒い夜の空気に頭をさらして、云い知れぬ悲壮な気持になっていった。我知らずお清のことを思っているのが、いつしか保子のことに変りがちだった。しまいにはその二つが一緒になって、彼の眼の前で渦を巻いた。