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はんこう

反抗

豊島 与志雄

「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页

青空文庫

下宿へ帰って、彼は先ず袴を取ってから、思い出したように懐の紙包みを探った。「御礼」と小さく書かれた女文字を一寸眺めた。そして中を開いた。十円紙幣が二枚はいっていた。

彼は軽い驚きを感じた。

初め、週に一回ずつ隆吉の学課をみてやることになった時、謝礼は月に十円ばかりあげる、というのが横田の言葉だった。そして実際、月末に二回、周平は夫人から十円ずつ貰ったのだった。それが此度に限って、而も不意に、二十円になっているのだった。

周平は、二枚の紙幣を机の上に置きながら考え込んだ。――五円紙幣と十円紙幣とが、何かの拍子に間違えられたのではあるまいか、と考えた。もしそうだったら、余分は当然返さなければならなかった。それを黙って着服するわけにはいかなかった。然し……その考えは、どうもぴたりと彼の気持へこなかった。――或は、好意から倍額にしておいて、自分に喜ばしい驚きを与えるために、わざと何にも告げられなかったのではあるまいか、とも考えた。この推察の方が彼の気持へぴたりときた。元々、隆吉の学課を見て貰うというのも、自分を補助する口実とするための、横田の方の好意なのであった。