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はんこう
反抗
豊島 与志雄
「国民新聞」1921(大正10)年8月4日~11月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 140,121 字 · 282 页
「横田もそのつもりですから、」と保子から今日も云われたのだ。……考えてるうちに、あの時の保子の調子が、彼の頭にまざまざと浮んできた。何の気もなく聞き流した、「落さないようにしなさいよ。」と言う言葉が、今になって頭に響いてきた。
彼は感謝の余り、涙ぐましい心地になった。
然し机の上の紙幣を金入にしまう時、彼は急にその手を止めた。
「このままではいけない!」
向うの好意だと推察するならば、一方にまた、向うの誤りだと推察出来ない筈もなかった。そう思いついた時彼は、前者だときめてかかった自分の気持に、或る狡猾さを感じた。次には、試されてるのではないかという疑懼の念も起った。彼は厭な気分になった。
「兎に角返しに行こう。それから先は向うの言葉次第だ」と彼は自ら云った。
いつのまにか日の光りが薄れていた。今からでは夕食の時刻にぶつかりそうだった。彼は一度立ち上った腰をまた下ろした。それにまた、横田の不在の折に保子一人へ話したかった。もし保子一人の好意から出たことだったら……。
「馬鹿!」と彼は自ら自分に浴せかけた。甘っぽい空想にまで陥りかけた自分自身が、なさけなかった。