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おじ

叔父

豊島 与志雄

「改造」1925(大正14)年2月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 11,585 字 · 24 页

青空文庫

「だけどいいわ。本当はお話があるんですの。叱らないで頂戴ね。」

「何を云うんだい、だしぬけに。叱りはなんかしないから、話があるなら云ってごらん。」

「今じゃないの。も少したってから……。」

伏せてた顔をふいに挙げて、じいっと見入ってきたその眼が、黒水晶のように底光りしていた。中野さんはまたびくりとして、一寸口を利きかねた。その間に、喜代子は黙って向うへ行ってしまった。

子供達はまた一しきりはしゃぎ続けていた。それが次第に静まっていった。

「どうしたの、喜代子さん。いやな人ね、考え込んでばかりいて。」

云ってるのは年上の娘の静子だった。

その静子が、後で中野さんにこんなことを云った。

「可笑しいわ、喜代子さんは。ふいに騒ぎだしたり、また黙り込んだりして、眼に一杯涙をためていらしたの。どうなすったんでしょう。」

中野さんにも腑に落ちなかった。黒水晶のような眼の光が、中野さんの頭の中に何度も浮んできた。

五月から六月へかけて、中野さんは会社の用件で満州の方へ旅をした。その旅行中に、意外な事件がもち上った。

喜代子には幾つも縁談がかかっていた。それを喜代子は両親から相談される度毎に、一言のもとにはねつけていた。