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とりかえしものがたり

取返し物語

岡本 かの子

「大法輪」1934(昭和9)年11月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 13,882 字 · 28 页

青空文庫

おや、またしてもわたしの取越苦労。「忘れまいぞえあのことを」「忘れまいぞえあのことを」何も時節因縁と諦めてしまえば、それで済むのだが。と言う口の下から、もう此の逢い度い心は、……ええ、も、いっそ、今日は、お上人さまにお目にかかるのはやめてしもうて、源兵衛さんに逢う一筋に骨を折ってみましょう。お上人さまはお師匠さんでも根は他人、源兵衛さんはわたしの夫。源兵衛さんに逢わずに往んでは、それこそ此の胸が焼け尽してしまうわ』

(おくみ、決心してすっくと立上る。いつの間にか蓮如上人弟子の竹原の幸子坊一人供につれ、上手奥より出て来て様子を見て居たが、おくみが立上る途端に上人は進み出て)

蓮如『おくみ、そりゃわしより源兵衛に逢うて行くがよい。わしは汚ない年寄りじゃものなあ』

(おくみ、びっくりして、それが蓮如上人だと判ると、がばと突き伏す)

おくみ『まあ、お上人さま。わたくしは恥しゅうて顔もあげられませぬ。お人の悪いお上人さま。立聴きなぞなされて』

蓮如『は、は、は、は、まあ、そう恥しがらんでもよい。恋も因縁ずく。勧めもせられん代りに障げもせられん。ただ忘れてならぬのは六字の名号じゃぞよ』