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くちぶえをふくぶし

口笛を吹く武士

林 不忘

「サンデー毎日」1932(昭和7)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,467 字 · 21 页

青空文庫

それが、こうして纏まって、かれは、すっかり町家の手代風に変装し、いま江戸へ上る途中なのだった。

同じ商人ていにつくった間新六は、部屋のまん中に、仰むけに寝そべっていたが、

「美い女でもとおるのか。」

「いや、驚いた。なんでもいい。来てみろ早く。」

「騒々しいやつじゃな。」

と、起って来た。

唯七は、笑いながら、しきりに眼下の往還を指さしている。

男が通っているのである。浪人体の武士である。その背中に、「この男売物」と大きく書いた半紙が、貼ってあるのだ。

白い紙に、墨黒ぐろと――いかにも変な文句。が、何度見ても「この男売物」と読める。

男は、その「売りもの」貼り紙を背なかにしょって、大威張りで歩いているのである。

新六も、いっしょに笑い出して、

「何だい、あいつぁ。狂人か。」

といった、その、気ちがいかというのが、ちょっと声が高かった。ちょうど真下をとおりかかっていた男に聞えて、かれは、立ち停まって振り仰いだ。

大たぶさに結り上げ、赫ぐろい、酒やけのした顔で、長身の――清水狂太郎なのだ。

かれは、何がな人眼をひく方策を編み出し、それによって、この街道すじの旅人のあいだに、なにか口を利く機会をつくろうと、いろいろ考えた末、この貼紙を思いついて、江戸から来るこの一つ手まえの宿、川崎の立場茶屋で、半紙を貰い、墨を借りて