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ふるきミニエチュア
古き小画
宮本 百合子
「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页
面覆いは少しずれ、汗と塵にまびれた間から一握りの白髭が、惨めな様子でこぼれていた。黒みがかった唇を少し開き、激しく息を切る、口の中は暗い穴のように見えた。観念したらしく眼をつぶってゆさりともしない大きな顔には、深い幾条かの皺が走り、何ともいえず寂しい、あじけない感じを起させる。スーラーブは、腰の短剣に手をかけたが、覚えず柄をつかんだまま逡巡した。老戦士の顔には、何かまるで人間離れのした感動があった。それがスーラーブを陰鬱にした。こんなにしてその体の上に踏跨っているのなどはさっさとやめ、手の塵を払って立ち上ってしまいたい、いやな浅間しい気を起されたのであった。彼は、その好機を利用して対手の面覆いを剥ぐことさえ忘れた。彼は、短剣にかけた手をそのまま、深く対手の上にこごみかかった。そして、ひとりでに囁きで訊いた。
「――真実卿はルスタムではないのだろうな」
四十三
老戦士の面には云いようのない苦しげな色が漲った。彼は、歯の間から呻いた。
「殺せ。殺せ。卿は勝ったのではないか」
云うなり一粒大きな涙が古木の表皮のように皺んだ彼の目尻から溢れ出した。