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ふるきミニエチュア

古き小画

宮本 百合子

「小樽新聞」1924(大正13)年1月14日~3月9日号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 70,298 字 · 140 页

青空文庫

このままではいられない、何とかしよう。どうしたらよいか、という執着の強い、絶え間ない囁きが、彼をつけ廻し出した。彼の不安に拘わらず、夜は眠れないほどの苦しさにかかわらず、唯一の考えは、彼の全精力を集中させようとする。スーラーブの心も、体も、魔もののような「どうしたらよいか」という渦の囲りに、離れようとしても離れられない不可抗の力で吸よせられた。彼は、日常の出来事に、溌溂とした注意を分離し、滞りなくそれらを処理する愉快さなどは、まるで失った。事務は皆、シャラフシャーに任せきってしまった。そして、愈々(いよいよ)寡黙に、愈々人ぎらいになった。宛然(さながら)、傷ついた獣が洞にかくれて傷を舐め癒すように、彼は、自分の心とさし向いになり、何かの道を見出そうとする。

僅か十六七日の間に、スーラーブの相貌はひどく変った。突つめた老けた、心を労す表情が口元から去らなくなった。憂鬱に近い挙止の間々に時とすると、燻(くす)ぶる焔のように激しい閃きがちらつくことがある。

宝石売が去ったのは、丁度四月の下旬であった。ツランの天候の一番定まりない時である。朝のうち薔薇色に照って、石畳や柱の縁を清げに耀かす日光は、午すぎると、俄にさっとかげって来る。