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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

彼はそうして彼女と二人で、話も遊びもしないで、ぼんやりしてることが好きになった。

六

光子は次第に痩せ細ってゆくようだった。殊に顔色が目立って蒼ざめ、額から頬へかけた皮膚が総毛立ったようになり、眼が黒ずんで変に光っていた。時折、動物園や植物園なんかに連れ出しても、余り喜ばなかった。

彼は心配して、加減でも悪いのかと度々尋ねた。然し彼女は黙って頭を振るばかりだった。

「どこも何ともないわ。」

しまいにそう云って、淡い微笑を浮べた。

そういう光子の様子に、房子も心配し初めたらしかった。そして或る時、どうも光子が夜中によく起きるらしいと、不思議そうに彼へ話した。

彼は驚いた。そしてなおよく尋ねたが、房子の話は更に要領を得なかった。夜中に、ひょいと布団の上に坐ることがあるけれど、それも夢中にするのらしく、またおとなしく寝てしまうのだと、ただそれだけのことだった。

「わたしがいくら聞いても、何とも云いませから、あなたから聞きただして頂けませんでしょうか。」

「そうですね……。」

彼は曖昧な返辞をしたが、しきりに気掛りになってきた。然し光子にいくら聞いても、はっきりした答は得られなかった。