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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

「片山さん、何してるの。」

或る時、娘の光子が、家の中から見付けてやって来た。

「あら。」

大きくなった穴と彼の顔とを、じろじろ見比べていたが、俄に真面目な顔付になった。

「そんなことをすると、お父さんに叱られるわよ。」

「え、どうして。」

「危いんですって。」

「なぜ。」

「なぜだか……この辺で悪戯をしちゃいけないって、お父さんがそう仰言ったの。」

「じゃあ、この石の下に何かあるの。」

「知らないわ。」

光子は実際何にも知らないらしかった。

彼は棒を投げすてて、首を傾げた。

二

――或るところで、古金銀貨幣、時価約三千円ほどのものを、庭の隅から掘り出した。維新当時、壺に納めて埋めてあったものらしい。

そういう新聞記事を、彼は二階の室に寝そべって、心の中で繰り返していた。馬鹿馬鹿しいが、それだけにまた空想を誘われた。

ふと、半身を起して眺めると、檜葉や椿の茂みごしに、庭の奥の穴のところに、人影が動いていた。彼が幾度かなしたと同じように、棒切で穴の底をつついてみたり、穴のまわりを踏んでみたりしている。それが、主人の松木庄作だった。

ははあ………という気持と、太い奴だ……という気持とで、彼はのっそり立上って、階下の縁側へ降りていった。