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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

快活に晴れやかにしてたところに、俄の病気なので、皆喫驚した。何の病気とも分らなかった。内部にはどこも故障はないと医者は云った。神経のせいかも知れないそうだった。

食慾がなく、元気がなく、頭を重く枕につけて、大きな眼をぱっちり見開いていた。どこが苦しいかと聞いても、どこも何ともないと答えた。精力がつきたようになりながら、少しも眠らないで眼を見開いていた。眼瞼を閉すことがあっても、ふいに大きく見開くのだった。

「元気を出さなきゃいけません。しっかりするんです。私がついててあげるから。」

彼がそう云うと、彼女は弱々しい笑みを浮べて、枕の上で大きく首肯いてみせた。

そして彼が一寸でも坐を立つと、すぐにまた呼び寄せた。

「ついてて、ねえ。」

然し別に話はしたがらなかった。何を云っても簡単な返辞をするきりで、黙って時々微笑むのだった。彼は書物を持ってきて、彼女の近くに寝そべりながら読んだ。

房子は呑気に構えこんで、光子のことは彼に任せきりだった。彼は腹立たしく思ったが、口に出しては云わなかった。

二三日目から、松木がひどく不安げに沈み込んで、外へも余り出なくなった。