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ふるいど

古井戸

豊島 与志雄

「中央公論」1925(大正14)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,433 字 · 43 页

青空文庫

周囲はみな小石がつまって固く、中だけ新らしい黒土で柔かだった。それを膝頭の上まで掘り下げた時、松木は穴から飛び出して、暫く首をひねって考えた。

「これは……何ですよ、屹度、古井戸の跡ですよ。」

「え、古井戸。」

彼も立上って穴を覗いた。

「古井戸を埋めた跡です。」

云われてみれば、全くそれに違いないらしかった。

「じゃあ、いくら掘っても駄目ですね。」

「駄目です。」

うっかり云って顔を見合った。瞬間に、松木はひどく兇悪な表情をしたが、次にはアハハと高笑いをした。

「古井戸の上に金魚池を掘ろうとしたところで、とても……。」

駄目だ、とはさすがに云いかねたものか、ぷつりと口を噤んで、それから急に腹立ったらしく、掘り起した黒土を元通り直しにかかった。

土がすっかり元に直るまで、松木は一休みもしなかった。朝日の光を受けてる、その脂ぎった体力のよさを、彼は皮肉な眼で眺めていたが、何故だか、自分自身も一寸気持が納まりかねた。

掘り返されたためか、土の不足も見せないで、地面は平らになった。

「ついでに一寸手伝って頂きましょうか。」

松木はいきなりそう云い被せて、彼に手伝わせながら、円い自然石を庭の程よいところに据えた。