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こきんしゅうまきのご
古今集巻之五
山本 周五郎
「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页
源三郎とは口をきいたこともないが、姿だけは見かけたことがある。顔かたちも、躯つきも記憶していないが、杉江と二人、ひと眼を忍んで、ひっそりと逢っている姿は、想像することができた。
――苦しかったわ、本当に辛かったわ。
お袖の言葉が、杉江と細野の二人を代弁するかのように思いだされた。杉江は自分の命でその代価を払った。妊娠三カ月、良人は江戸へ去る、去るまえに代価を払わなければならない。そして同時に、秘密も葬ってしまうのだ。そうだ、と主計は思った。杉江はそうして自殺を選んだのだ。
「杉江、そうだったんだな」と主計は呟いた、「そうするほかに、おまえにはとるべき手段がなかったんだな」
主計のつむった眼から涙があふれ出、頬を伝って机の上へ落ちた。彼はふところ紙を出して涙を拭き、書きかけていた決闘状をひき裂いた。
明くる朝早く、主計は細野家に源三郎を訪ねた。源三郎は二十五六にみえた。躯の小柄な、しかしいかにも賢そうな顔だちで、眼が際立ってすずしく澄んでいた。
「私は近いうちに中老を拝命する筈だ」と主計は云った、「そのときそこもとに助役を頼みたいが、承知してくれるか」