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こきんしゅうまきのご
古今集巻之五
山本 周五郎
「文藝春秋」文藝春秋新社、1958(昭和33)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 21,482 字 · 43 页
二
二
永井家は神戸小橋の角で、上屋敷にある岡本家からは二丁足らずだった。時刻は五時まえ、曇ってはいたがあたりはまだほの暗く、風はひどく冷たかった。迎えに来たのは藤田伊太夫といい、永井家の家扶で四十六歳になるが、動顛しているようすで、「どうぞお早く」と云うほかには、ひと言も用件を口にしなかった。
永井主計は仮面のような顔をしていた。それは岡本五郎太にとって、これまでかつて見たことのない、まるで見知らぬ人の顔のように思えるものであった。
「こんな時刻に済まない」と主計は無感動な声で云った、「こっちへ来てくれ」
主計は五郎太を寝所へ案内した。そこは妻の寝間らしい、襖は彩色の花鳥の絵で、絹張りのまる行燈に灯がともっていた。広さは六帖、夜具を隠すように枕屏風が立ててあり、香のかおりが噎せるほど強く匂っていた。主計は黙って屏風を取りのけ、夜具の上を指さして云った。
「杉江が自殺したのだ」
五郎太は主計を見、夜具の上を見た。そこには妻女の杉江が、右を下にし、足をこごめたかたちで、横たわっていた。白無垢を着、脛のところを水浅黄の扱帯で縛ってある。五郎太は片膝を突いて死躰をしらべた。