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どうほう
同胞
豊島 与志雄
「中央公論」1924(大正13)年4月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页
祖父が一番ひどく腹を立てた。それが祖母の骨折りでうまく納った。その女中は、お腹の子供と多少の金とを持って、或る人の所へ嫁入った。そして生れた子供は男の子だったが、すっかりその人達の子として育てられた。父が死んだ時一寸来たばかりで、全くの他人となっていた。今ではその一家は、大塚に紙屋をやっていて、他に二三人子供もあり、わりに楽に暮していた。恒夫の弟に当るその子は、小野田茂夫といって、豊山中学校に通っていた。
「本当ですか、お祖母さん。」と恒夫は叫んだ。「お祖母さんはどうしてそんなによく知ってるんです。」
「表向きどうということは出来ませんけれど、間に人を立てて、影ながら面倒をみてやってるので、すっかり様子は分っていますよ。」
その言葉が終らないうちに、恒夫はふいと立上って、自分の室へ馳けていった。そしてまだ耳に残ってる、弟の名前とその住所とを手帳に書き留めた。それから俄に分別くさい様子をして、祖母の所へ戻ってきた。
「お祖母さん、僕の弟に逢いたいでしょう。」
答がないのでよく見ると、祖母は炬燵の上に顔を伏せて、眼から涙をこぼしていた。
何が悲しいんだろう、と恒夫は一寸考えてみたが、分らなかった。