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どうほう

同胞

豊島 与志雄

「中央公論」1924(大正13)年4月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,713 字 · 32 页

青空文庫

それでも祖母の涙は、何だか神聖な触れてならないもののように感ぜられた。胸の奥でぴくりとして、途方にくれて、縁側に出てみた。西に傾きかけた日脚が、明るく一面に照っていた。空が青くて馬鹿に高かった。彼は其処に踊り跳ねたい気持をじっと押えて、弟の面影を想像し初めた。

軽い咳の音がした。振向いて見ると、祖母は左の肩に手をやって揉んでいた。

「僕が叩いてあげましょう。」

そして彼は元気よく祖母の後ろに坐って、祖母の痩せた頸筋と赤みがかった髪の毛とを、初めてのように珍らしく眺めながら、指先で眩しいほど早くその肩を叩きだした。

静かな晩だった。来客の用心に拵えられていた御馳走と、料理屋からみやげに持って来られた御馳走とに、恒夫はすっかり満腹して、額が軽く汗ばんでくるような心地だった。

祖父はまだ餉台の前に端坐して、ちびりちびり酒を飲んでいた。母は長火鉢の銅壺で酒の燗をみていた。祖母は炬燵を持って来さして、それにあたりながら脇息によりかかっていた。そして皆の間には、法会のことや親戚の人達の噂など、いつもより多くの話題があった。電燈の光もいつもより明るかった。

それらの光景を、恒夫は不思議そうに眺め廻した。