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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
それに彼は生まれながら、都会人の素質を持っていて、江戸の華やかな色彩に対しては、あこがれの心を禁じ得なかった。
ところが今日はからずも、江戸めいた美しい女の顔を、駕籠の中に見たばかりか、その女から笑い掛けられたのであった。
彼の心が動揺し、それが態度に現われたのは、やむを得ないことであろう。
紙つぶてに書かれた「あ」の一字
「どう遊ばして、銀之丞様」
お品が不足そうに声をかけた。「考え込んでおりますのね」
「や、そんなように見えますかな」
「お菓子を半分食べかけたまま、手に持っておいでではありませんか」
「これはこれは、どうしたことだ」
「どうしたことでございますやら」
「おおわかった、これはこうだ」テレ隠しにわざと笑い、「あんまりお品さんが可愛いので、それで見とれていた次第さ」
「お気の毒様でございますこと」
「ナニ気の毒? なぜでござるな?」
「なぜと申してもあなた様のお目は、わたしの顔などご覧なされず、さっきからお庭の石燈籠ばかり、ご覧になっているではございませんか」
「いや、それには訳がある」
「なんの訳などございますものか」
「なかなかもってそうでない。