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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「どうやらこれは武辺者の……」「さよう、武辺者の足跡でござる。目的をとげた武辺者は、人に見られるのを憚って、堤から飛び下り耕地を伝い、両国の方へ逃げたのでござる」

「そうして、武辺者の目的というは?」

「それがとんと分らぬのでござるよ」平八の声には元気がない。「五人の人間の行動は、あらかた足跡で分ったものの、その外のことはトンと分らぬ」「お前様ほどの慧眼にも、分らないことがござるかな?」「不可解の点が四つござる」「四つ? さようかな、お聞かせくだされ」

「鼠小僧と想像される男が、この場へ来かかったのは何のためか? 偶然かそれとも計っての事か?」「いかさまこれは分らぬわい」「頭髪を切ったは何のためか? 威嚇のためか意趣斬りか? これが第二の難点でござる。武辺者はいったい何者か? 浪人か藩士かその外の者か? これが三つ目の難点でござる」「そこで四つ目の難点は?」

「美音の鼓! 美音の鼓!」

「さようさ、鼓が鳴りましたな」

「誰が鼓を持っていたのか? 何のために鼓を鳴らしたのか? 誰が鼓を鳴らしたのか? その鼓はどこへ行ったか?」

「いやはやまるっきり分りませぬかな?」