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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

「だから、俺は、そう睨んだのさ」

「こまったことでございますな」

「どうでもこれはうっちゃっては置けぬ」

「なんとか致さねばなりますまい」

「きゃつがこの世に生きているについては、この家斉、責任がある」

「これはこれはどうしたことで」碩翁すっかり面喰らった。

「きゃつの命を助けたのは、他でもない、このおれだ」

「あなた様が? これはこれは!」

「おれはその頃は野心があった。海外に対する野心がな。で、きゃつを助けたのさ。その素晴らしい科学の力、その素晴らしい海外の知識、それをムザムザ亡ぼすのが、おれにはどうにも惜しかったからな」

「これはごもっともでございます」

「で、南洋へ追いやったのさ、ただし、その時約束をした」

手文庫をあけて取り出したのは、文字を書いた紙であった。

「これがきゃつの書いたものだ」

「ははあ、なんでございますな?」

「民間でいう書証文だ」

「妙なものでございますな」

「これをきゃつに見せてやりたい」

「何かの役に立ちますので」

「きゃつがほんとうの勇士なら、赤面するに相違ない。そうして日本を立ち去るだろう」

「手渡すことに致しましょう」

「だが、どうして手渡したものか」