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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
「襲撃ぶりか、武士的であったよ」
「は? 武士的と申しますと?」
「決して婦女子は殺さなかった。そうして敵対をしない限りは、男子といえども殺さなかった」
町奉行所の与力たち
「それは感心でございますな」
こういいながら平八は、またも手帳へ書きつけた。
「つまり彼は威嚇をもって、相手を慴伏させたのだ」将監は先へ語りつづけた。「こいつと目差した船があると、まずその進路を要扼し、ドンと大砲をぶっ放すのだ。だがそいつは空砲だ。つまり停まれという信号なのだ。それで相手が停まればよし、もしそれでも停まらない時には、今度は実弾をぶっ放すのだ。が、それとてもあてはしない。相手の前路へ落とすのだ。これが頗る有効で、大概の船は顫えあがり、そのまま停まったということだ。しかしそれでも強情に、道を転じて逃げようとでもすると、その時こそは用捨なく、三発目の大砲をぶっ放し、沈没させたということだ」
「一発は空砲、二発は実弾、ただしそのうち一発は、わざとあてずに前路へ落とす、つまりかようでございますな」
平八は四たび書きつけた。
「もはや充分でございます」
お礼をいって邸を出ると、平八はふたたび駕籠へ乗った。