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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
それに度胆を抜かれていた。で、眼ばかりパチクリさせた。
「解らないかな」と冷やかに笑い、フイと武士は立ち上がったが、「お前の目的とおれの目的と、どうやら同じように思われる。……それはとにかくこの船はな、二千石船だよ! ご禁制の船だ!」いいすてると武士は大跨に歩き、胴の間の方へ下りていった。
後を見送った平八が、心の中で、「あっ」と叫んだのは、まさに当然というべきであろう。彼はウーンと唸り出してしまった。「武術が出来て手相が出来、そうしてご禁制の大船の図面を、二葉までも持っている。……みなりは随分粗末ながら、高朗としたその風采、一体全体何者だろう?」
しかし間もなく武士の素性は、意外な出来事から露見された。
それは上総の御宿の沖まで、船が進んで来た時であったが、忽ち海賊におそわれた。その時はもう夕ぐれで、浪も高く風も強く、そうしてあたりは薄暗かったが、忽然一せきの帆船が行く手の海上へあらわれた。べつに変ったところもない、普通の親船にすぎなかったが、しずかにしずかに八幡丸を、あっぱくするように近寄ってきた。ちょうどこの時平八は、船のへさきに胡坐をかき、海の景色をながめていたが、その鋭い探偵眼で、賊船であることを見てとった。