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めいじんじごく

名人地獄

国枝 史郎

「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页

青空文庫

木立ちを出ると小広い空地で、戦いよさそうに思われた。左手を見れば長廊下で、出邸の一つに通じていた。右手を見ても長廊下で、また別の出邸に通じていた。空地を突っ切ると本邸で、戸にさわると戸が開いた。と眼の前に長い廊下が、一筋左右に延びていた。耳を澄ましたが人気はなく、ただ薄赤い燈火が、どこからともなくさしていた。「ともしがさしているからには、どこかに人がいなけりゃあならねえ」で次郎吉はその廊下の、右手の方へと忍んで行った。すぐに一つの部屋の前に出た。これぞお艶の部屋なのであったが、今夜は誰もいなかった。で次郎吉は引き返そうとした。

しかし何んとなく未練があった、で、しばらく立っていた。

森田屋一味の赤格子征め

しかるにこの頃暗い暗い、銚子の海の一所に数隻の親船が現われた。森田屋一味の海賊船で、赤格子ぜめに来たのであった。すなわち彼らの根拠地から、用意万端ととのえて、総勢すぐって二百人、有司の鋭い警戒網をくぐり、ここまでやって来たのであった。……親船は岸へ近づいて来た。やがて碇を下ろしたとみえ、ゆたかに海上へ漂った。と小船が無数に下ろされ、それが一斉に岸へ向かって、さながら矢のように漕ぎ寄せられた。