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めいじんじごく
名人地獄
国枝 史郎
「サンデー毎日」1925(大正14)年7月5日~10月25日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 149,286 字 · 301 页
岐蘇太郎の横には平手造酒が坐し、それと並んで坐っているのは、他ならぬ観世銀之丞であった。打ち合っていた門弟達は、田舎者の姿へ眼をつけると、にわかにクスクス笑い出したが、やがてガラガラと竹刀を引くと、溜りへ行って道具を脱ぎ、左右の破目板を背後に負い、ズラリと二列に居流れた。
「他流試合希望の者、召し連れましてござります」
取り次ぎの武士は披露した。
すると定吉は莞爾としたが「千代千兵衛とやら申したな」
「へえ、千代千兵衛と申しますだ。どうぞハアこれからはお心易く、願えてえものでごぜえます」田舎者はこういうと、一向平気で頭を下げた。胆が太いのか白痴なのか、にわかに判断がつき兼ねた。
「で、流名はないそうだな?」
「へえ、そんなものごぜえません」
「当道場の掟として門弟二、三人差し出すによって、まずそれと立ち合って見い」
「へえ、よろしゅうごぜえます。どうぞ精々強そうなところをお出しなすってくだせえまし」
「秋田氏、お出なさい」
「はっ」というと秋田藤作、不承不承に立ち出でた。相手は阿呆の田舎者である、勝ったところで名誉にならず、負けたらそれこそ面汚しだ。一向栄ない試合だと思うと、ムシャクシャせざるを得なかった。